コラム
建設業界は今後どうなる?
建設業界は、人々の営みに欠かせないインフラを守る重要な存在であるとともに、その年間国内投資額は安定して数十兆円以上ある、まさに日本の経済の柱と言える巨大市場です。
しかし現在、建設業界は大きな問題を抱えており、苦境に立たされていると言える状況です。
建設業界の抱える大きな課題
建設業界は、現在多くの課題を抱えています。建設業者の倒産件数は近年増加傾向にあり、2023年の倒産件数は前年比30%以上の増加となりました。
倒産の背景にあるのは近年のコロナウイルス対策に係る融資・補助金の終了や資材の高騰・円安の影響もありますが、それだけではありません。
人材の不足・高齢化問題
建設業界の最重要課題として人材の不足・高齢化が挙げられます。
建設業就業者数は平成9年をピークに減少傾向にありますが、その中でも資格者・技能者の数の減少と高齢化は顕著です。
資格者・技能者の60歳以上の割合は全体の25%以上を占めていると言われており、10年後にはその大半が引退すると見込まれています。反対に、これからの建設業界を支える29歳以下の割合は全体の12%程度と言われています。
また、建設業就業者の処遇改善や働き方改革・DX化の遅れを取っている現状から、今後更に人材離れの状況が深刻化する可能性は高いと言えます。後継者不在と言った人材不足から廃業を余儀なくされるケースも少なくありません。
人材確保には労働環境改善の推進が必要
建設業界における年間の総実労働時間は、全産業平均と比べ90時間程長いと言われています。
これは20年以上前から見れば、減少傾向にあるものの、未だ整備が追いついていないと言える状況です。加えて、休日については、現代においては当たり前とも言える週休2日を取れていない現場も多くあり、労働環境改善の推進が必要なのは一目瞭然です。
しかし、これは多重下請け構造である建設業界において、発注者や元請けからの不適正な工期・金額設定や不適正な中抜き業者の存在(いわゆる丸投げと言われる一括下請け)の問題にも関わってくるため、下請け業者のみでは改善が難しいというのもまた事実です。国としても持続可能な建設業に向けた取り組みとして、整備に大きく乗り出しているところでもあります。
人材不足がもたらす経営の課題
一定以上の額の工事を請け負うためには、建設業者は、建設業法第3条に基づく建設業の許可を受けなければなりません。この建設業の許可を受けるためには、建設業に係る国家資格者や長年のベテラン技能者、一定年数以上の建設業経営の経験者の存在が必要です。
しかし、人材不足の現状から、国家資格者・ベテラン技能者の確保が難しく、同様に、優秀な建設業経営の経験者の確保も難しくなっています。
さらに、前述した処遇改善や働き方改革などの労働環境の整備の遅れから、人材定着の難易度も大きく上がっています。
そのため、小規模な建設業者や新規参入の建設業者の中では、必要人材の不在から建設業の許可の取得や維持ができず、大きな工事を請け負うことができない=会社規模を発展させることができない、といった大問題が発生しているケースは珍しくありません。
人材紹介サービスやM&Aのニーズの高まり
人材不足の背景から、注目されているのが建設業界の人材紹介サービスやM&Aです。施工管理の国家資格を持った若く勢いのある人材が、人材紹介サービスを使い、より待遇の良い環境の整った雇用先へ、といった動きは当たり前となってきています。
企業側から見ても、手っ取り早く良い人材を見つけることができる手段として高いニーズがあります。
また近年、建設業界でもM&A(事業譲渡や合併・分割)が活発に行われるようになりました。人材・承継者不足の課題を解決することができ、顧客や未進出エリアへのコネクション獲得など、会社規模を大きくするために有効な一手と言えます。
昨今、建設業界においてのM&Aのニーズの高まりから、建設業法が改正され、「建設業の許可の事業承継制度」が新設、M&A時に建設業の許可を引き継ぐことができるようになりました。これは業界の大きな転換点と言える出来事です。
変化を求められている時代
各所の都市開発計画や2025年の万博、2027年のリニア開業に向けて建設業界のニーズは高まる一方です。しかし、建設業界の抱える課題は待ったなしの状況で、難しいかじ取りを迫られていることは間違いありません。大きな変化を求められているこの時代に何を選択し取り組むか、経営陣の手腕が問われています。
参考資料
国土交通省発行 建設業を巡る現状と課題